令和元年(行ケ)第10085号(サーバ装置,その制御方法,プログラム,及びゲームシステム)~紹介事項1~
令和元年(行ケ)第10085号(サーバ装置,その制御方法,プログラム,及びゲームシステム)(不服2019-2409,特願2018-146350号,特開2018-196752号)
令和2年6月4日判決言渡,知的財産高等裁判所第3部 ~紹介事項1~
089504_hanrei.pdf (courts.go.jp)
1.判決
請求認容
2.本願発明(一部の構成のみ抜粋しています)
「前記第1フィールドに表示された複数のキャラクタカードのうち,前記ポイントが時間の経過に伴って加算されるポイント総量以下であるキャラクタカードをプレイヤの操作によって選択可能に表示する第2制御手段と,」
2.引用発明(該当部分のみ抜粋しています)
『カードを「第11領域」から「第3領域」または「第4領域」に移動させるときに,「第6領域」の上下の数字表示のうち上の数字である「マナ」の数字が減算され,その減算額は,CREATUREの日本語名の直後に記載される「1●」や「4●」などの「レベル」の値に等しく,』
『「マナ」の数字は,ゲーム開始である1ターンを除く3ターン以降,新しいターンが開始される毎に増加し,』
3.争点
『2 取消事由1-1(相違点Aの看過)について』
<原告(要旨)の主張>
引用発明の「ターン」の経過は時間の経過と同じではなく,「ターン」の経過とは無関係に時間の経過に伴って「マナ」が増加するというものではない。
<裁判所の判断(要旨)>
(1)請求項1には,「時間の経過」が意味する事項について,「ターン」の経過とは無関係 に,時間の経過のみによってポイント総量を加算することであると特定する具体的な記載はない。したがって,原告の主張は,本願の特許請求の範囲の 記載に基づく主張であるとはいえないから,採用できない。
(2)出願明細書の記載からも、上記(1)の主張のような技術的な意義は付与されていない。
“時間の経過”と“ターンの経過”がどう違うのか、といったことは、出願段階で一言書いておきたいところですね~と思い、本件(分割出願)の最先の親出願(特願2013-42162)を確認すると、“ターンにおける時間の経過”という記載がありました。このような記載も、 “「ターン」の経過とは無関係である”という原告の主張が認められなかった理由の一つなのではないかと思いました。
出願当初の不利な記載内容を踏まえて有利な主張を行うというのは、特許事務所の腕の見せ所のような気がします。でも、その難しさは、やったことのある人でないと分からなかったりします。これからも日々精進して参ります・・・。
令和元年(行ケ)第10116号(回転ドラム型磁気分離装置)~紹介事項2~
令和元年(行ケ)第10116号(回転ドラム型磁気分離装置)
(不服2018-12494,特願2014-202824)令和2年5月20日判決言渡,
知的財産高等裁判所第2部 ~紹介事項2~
089515_hanrei.pdf (courts.go.jp)
1.判決
請求認容
2.引用文献1
排出口15からタンク17内に混濁液が投入され,仕切板19で仕切られた右側の区域において,鉄粉等を含有したダーティオイルから鉄粉等が除かれ,除かれたクリーンオイルは,仕切板19の上端と液面との間の間隙を越流して,左側の区域に移り,同区域にあるクリーンオイルはポンプによって吸い上げられてタンク17の外の工作機械に送られる。このような混濁液の流れに伴い,タンク17内に混濁液の流れが生じる。
3.被告(特許庁)の主張(一部の要旨)
引用発明は,混濁液の流れによりマグネットドラム25に接近して吸引されるような機会を与えることにより,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものである。
4.裁判所の判断(争点についての判断における要旨)
引用文献1の記載からすると,引用文献1に記載された装置は,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉等の不純物をもマグネットドラムに吸着させて分離排出するものであることが認められるが,そうであるからといって,必ずしも,混濁液をマグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって流れるようにする必要はない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
引用文献1には、液の「流れ」についての説明が記載されていません。特許庁は液が「流れる」と解釈していますが、裁判所は、“引用文献1の発明が機能を発揮するために必ずしも「流れ」は必要でないから、「流れる」とまではいえない”としています。
このような判決に対する批評として、“引用文献1に「流れ」のことが記載されていれば防げた論争であった”というのがありがちな気がします。でも、引用文献1の明細書を書く立場に立てば、発明者の方と知財担当者の方の意見の取りまとめが大変で、「流れ」の情報にたどり着く前に手一杯、ということもあります。そうならないよう、効率よく的確にヒアリングすることが必要ですね。日々精進して参ります!
令和元年(行ケ)第10116号(回転ドラム型磁気分離装置)~紹介事項1~
令和元年(行ケ)第10116号(回転ドラム型磁気分離装置)
(不服2018-12494,特願2014-202824)令和2年5月20日判決言渡,
知的財産高等裁判所第2部 ~紹介事項1~
089515_hanrei.pdf (courts.go.jp)
1.判決
請求認容
2.本件発明
・特許請求の範囲の記載:(争点に直接関係する部分のみ)
「前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,・・・前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が・・・前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」
第1の回転ドラム:13、スクレパー:27、底部部材:30
3.引用文献1
4.争点(一部)
・被告(特許庁)の主張(一部の要旨):
引用文献1においては,タンク17の底部が底部材に相当し,マグネットドラム27とタンク17の底部との間に混濁液の流路が形成されるので、相違点3は存在しない。
5.裁判所の判断(上記争点についての判断における要旨)
特許請求の範囲の記載からすると,第1の回転ドラム(13)に向かうクーラント液は,第1の回転ドラム(13)下部に第1の回転ドラム(13)と底部材(30)との間に形成された流路を流れるものであって,スクレパー(27)によって掻き取られた磁性体を第1の回転ドラム(13)に誘導するものであると解される。そして,このことは,明細書の記載でも裏付けられている。
しかし、引用文献1には、マグネットドラム27(第1の回転ドラムに相当)とタンク17の底部との間にマグネットドラム25(第2の回転ドラムに相当)からマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが生じていることは記載されていない(甲1)から,相違点3’は存在し,被告の上記主張は理由がない。
引用文献1のカキ取り板39の上側に着目すれば、マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが発生しているように解釈できると思います。でも、“タンク17の「底部」のことではないので、引用文献1からは、タンク17の「底部」の流れまでは分かりませんよ~”と判断された例かと思います。
発明同士の一致点・相違点の判断は、発明の本質を弁える(わきまえる)上でキモになる作業と思います。弁理士の「弁」の字は、もともと「わきまえる」の意味の「辨」だったそうです。
自分が特許庁に任期付審査官(補)として採用されたとき、最初の頃の研修で、民間人時代と一番違いを感じたのは、一致点の認定の厳しさでした。また、任期付審査官は、審判官になれないのですが、審判の合議体を経験する研修がありました。そのときも、一致点の認定に関して難しさを感じました。
でもいろんな要因(一言では言えません)があって、ときには本判決例のように一致点・相違点の認定が甘くなってしまうこともあります。人間だもの。自分も判断が甘くならないよう日々精進して参ります!
平成31年(行ケ)第10010号(配列操作のための系,方法 および最適化ガイド組成物のエンジニアリング) ~紹介事項2~
平成31年(行ケ)第10010号(配列操作のための系,方法 および最適化ガイド組成物のエンジニアリング)(不服2017-13795,特願2016-117740号,特開2016-165307号)
令和2年2月25日判決言渡,知的財産高等裁判所第1部 ~ご紹介事項2~
089260_hanrei.pdf (courts.go.jp)
前回ご紹介したのと同じ判決ですが、争点が違っています。
1.判決
請求棄却
2.争点(一部)
(1)原告(出願人)の主張(一部の要旨):
引用例1は,標的部位において組換えが生じたことを実験データによって示していない。引用発明1は,当業者が反復継続して所定の効果を挙げることができる程度まで具体的・客観的なものとして構成されていないから,特許法29条の2による後願排除効を有していないというべきである。
(2)被告(特許庁)の主張(一部の要旨):
引用例1には、引用発明として認定し得る程度十分に開示されている。
3.裁判所の判断(上記争点についての判断における要旨)
特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たって,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる。求められる技術内容の開示の程度は,当業者が,先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度に記載されていれば足りるというべきである。
***書き屋弁理士の独りごと***
特許法29条の2は、先に出願されているけれども未公開である他人の発明によって、後に出願された発明を拒絶できるようにしている規定です。
本判決にあるように、発明というのは、明細書の全体の文脈や、明細書と図面との関係から判断して認定されたりします。ですので、我々の日常業務でも、特許庁の審査官が提示してきた引用文献や、自分が書いた明細書を丁寧に読んで、複数の箇所に断片的に書かれている内容を結び付けて発明を説明する作業が必要になったりします。直接的に記載されていることを説明するのではないですし、ご都合主義になって言い過ぎてもいけないので、加減が難しいです。日々精進して参ります・・・。
平成31年(行ケ)第10010号(配列操作のための系,方法 および最適化ガイド組成物のエンジニアリング)
平成31年(行ケ)第10010号(配列操作のための系,方法 および最適化ガイド組成物のエンジニアリング)(不服2017-13795,特願2016-117740号,特開2016-165307号)
令和2年2月25日判決言渡,知的財産高等裁判所第1部~紹介事項1~
089260_hanrei.pdf (courts.go.jp)
1.判決
請求棄却
2.争点(一部)
(1)原告(出願人)の主張(一部の要旨):
引用発明1について特許庁が認定した以下の事項は、引用発明1から認定できない。
「前記ガイド配列が,真核細胞中の前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を標的とし,前記Cas9 タンパク質が,前記1つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座を開裂し,それによって,前記1 つ以上のポリヌクレオチド遺伝子座の配列が,改変される」
引用例1のFACS実験とPCR実験により得られた結果には矛盾があるので,当業者は,この矛盾点を検討し,CRISPR-Cas9システムが真核細胞において作動するか否かにはなお疑問があると判断したはずである。
このように,引用例1には,真核細胞内でのゲノムDNAの標的部位での配列の編集ができなかった系が記載されているにすぎないから,上記のとおりの配列の編集ができる本願発明と実質的に同一であるということはできない。
(2)被告(特許庁)の主張(一部の要旨):
引用例1には、引用発明として認定し得る程度十分に開示されている。
3.裁判所の判断(上記争点についての判断における要旨)
引用例1の実施例4,5や、これらの実施例で行われている蛍光活性化細胞選別(FACS)やPCR実験の結果について良く読めば、引用例1には、発明の構成が形式的な記載だけでなく、実体を伴って記載されていたというべきである。
***書き屋弁理士の独りごと***
引用例1(先願1)に書かれている内容を丁寧に読んだうえで、引用例1に記載された発明と本件発明が同一と判断された例かと思います。私は機械系や制御系の仕事を主に行っており、この分野の技術的なコメントはできません。
でも、引用例1を出願した側に立って考えるとすると、実施例を丁寧に記載しておいてよかったな~という感じではないかと想像します。
最近は、明細書原稿の納期が短かったり、比較的低料金で出願を受任していたりして、丁寧な仕事を行うための時間の確保に苦労します。
そんな中でも根気強く丁寧に仕事しないといけませんね。日々精進して参ります・・・。
なお、本件は、簡便なゲノム編集を可能にする話題の発明のようで、現時点でもファミリーがたくさんいました!